中央協同組合学園校友会

交流のひろば

引き裂かれる畜産農家・宮崎口蹄疫の現状


 「てんごくのうしさん。はやくよくなってね。」これは、地元の幼稚園児が、JAに届けてくれた励ましの千羽鶴にかかれていたものです。
 
 本年4月20日に発症した宮崎県における口蹄疫は、疑似患畜の確認が相次ぎ、殺処分対象となる頭数はかってない規模に達し、生産現場は未曽有の危機に直面しています。
 
 また地元では、人の集まりによる感染を警戒し、畜産農家だけでなく地域住民の生活にも深刻な影響を与えており、このままでは宮崎経済と住民生活に深刻なダメージを残すことは確実な状況にあります。
 
1.疑似患畜発生の状況(平成22年6月14日現在)
 
 県内5市(えびの市、西都市、都城市、日向市、宮崎市)、5町(川南町・都農町・高鍋町・新富町・木城町)の289事例、対象頭数は、197,718頭(牛36,821頭、豚160,880頭、山羊9頭、羊8頭)に及んでいます。
 
 この事態に対し、政府は発生農場における防疫措置(農場の全家畜を殺処分し、農場を消毒する)を行い、5月19日には、10km(移動制限)区域内のすべての牛・豚を対象に、22日から殺処分を対象としたワクチン接種開始するとともに、6月5日より接種した家畜の殺処分を始め、10~20km(搬出制限)区域内の早期出荷にも取り組みました。
 
 しかし、埋却用地の確保や雨天等の要因により措置が遅れ、現時点でワクチン接種頭数との合計では275,768頭の対象家畜のうち35.8%(98,761頭)がまだ殺処分されておらず、防疫上の大きな課題となっています。
 
 また、頭数について字面ではピンと来ない方もいらっしゃると思いますが、宮崎県内の牛・豚の25%に達し、10km(移動制限)区域内の牛・豚が一定期間一頭もいなくなる事態であり、その深刻さはご理解いただけると思います。
 
 さらに宮崎牛は、全国のブランド牛(松坂牛等)の素牛(子牛)としても全国供給されており、殺処分による素牛供給の縮減は地元にとどまらず全国の肥育農家の経営に長期の影響を及ぼすことが必至な情勢です。
 
2.JAグループの取り組み
 
 口蹄疫発症後、宮崎JAグループでは直ちに宮崎県JA畜産防疫対策本部・宮崎県経済連口蹄疫防疫対策本部を設置し、羽田会長を本部長とし、宮崎県対策本部とも連携し、政府への対策要請とともに、連日、JA・県連・中央会の職員が1日平均100人以上を動員して、感染農場・消毒ポイントへの対応等を展開しており、当該JAにおいては通常業務にも支障が生じる状況に至っています。
 
 一方、全国連でも4月21日に全中会長を本部長とする「口蹄疫にかかる全国団体対策本部」(全中、全農、全経連、農林中金、家の光、日本農業新聞)を設置し、JAグループ宮崎と連携し、国等への要請、飼料・資材の供給対応、営農資金や共済掛け金の償還猶予等の支援事業対応とともに、JAグループ役職員自らの取り組みとして、5月中旬から6月末を期間とする全国募金運動(1億円目標)を展開しています。
 
 また、JAグループ宮崎が展開する署名運動への広く国民・消費者の理解を促進するため、組織を挙げた取り組みとして全国機関役職員を中心に街頭募金・署名活動を展開しております。
 
 街頭では関心も高く、アルバイトの若者が1万円を握りしめ、自分も何かお手伝いしたいと駆けつけるなど、職員が目頭を熱くする光景も見られ、温かな支援の広がりに感謝しみんな頑張っております。
 
 一方、全農・全中は現地連絡要員・営農支援対策要員を派遣しておりますが、生体の殺処分に対する精神負荷は大きく、日本畜産・宮崎畜産を守るためとは理解していても、生産者が家族のように育てた家畜を殺処分しなければならない悲痛な報告を聞くたびに、ことの深刻さに身が震える日々でもあります。
 
3.今後の課題
 
 宮崎においては、1日も早い終息宣言を目指し、日夜必死の防疫対策が進められていますが、今後は、畜産農家の再建に向けた経営支援対策とともに心のケア対策、さらには、畜産農家の再建を支えるJAグループ宮崎の経営支援問題も大きな課題となってきます。
 
 私も畜産農家の倅として、自ら育てた家畜を殺処分することの苦悩もさることながら空になった畜舎に家畜を入れられない悔しさと虚脱感は筆舌に尽くし難いものであることは、親の背中を見てきて痛いほど分かります。
 
 また、今後の再建対策に向け畜産物だけでなく、野菜・果樹への風評被害の発生が懸念(殺処分映像の放映後、一部には発生している)されます。
 
 日本と宮崎の畜産、安全・安心なの畜産物を消費者に届けるために一番上等の餌をやり、我が子を諭すように殺処分する農家の心情を思い、1日も早い再建への歩みとともに、私たちは、他の生き物の命を頂きながら日々の食料を得ていることへの感謝を、再建に向けた国民的な支援をお願いするとともに、消費者とともに再認識する必要があると思います。
 
 そして最後に、今回の口蹄疫の現場においても報道等ではほとんど取り上げられませんが、防疫対策、経営支援対策の最前線で重要な役割を担ってきたのは誇張でなく我々JAでした。
 
 農業・組合員を支えるのがJAの役割といわれればそれまでですが、地域農業・地域社会の維持・発展に果たしている我々JAの役割・取り組みについて、正確に認知・理解を頂く広報の重要性も再確認した次第です。
 
 いずれにしても、「一人は万人のために、万人は一人のために」。
 
 私たちは、この協同組合の本質を体現する自らの行動を。今こそ。

(文責:久保 信春)